『Nの系譜』 (SPLIT EP EARLY 2015に寄せて)

今回、許可というか機会を得て、「SPLIT EP EARLY 2015」に至るまでの、長い長いバックグラウンドなども交えて、筆の遅いこの自分が想いを寄せる事となりました。TAGで歌を担当させてもらっているryoです。


TAGで今回横さん(横山和俊氏)とakiさん、同じCDに収録、それもオムニバスやカバーなどではなく、自分の手がけた歌で作品として残るのはとても嬉しい事でした。
それがいかほどのものなのか、今回の事でTAG、ryoのことを知った方もいらっしゃると思うので触れていきます。






お二人との付き合いはakiさんとがかなり長く、それこそもう20年ほどになります。
自分の人生の半分以上を知ってくれている人です。
そもそも、私ryoは新潟の生まれで、akiさんと知り合った頃も新潟に。
その頃の自分はまだバンド活動らしい事もしておらず、ツアーバンドが地元のライブハウスに来ると、公演の現場周りを手伝っていた(リスキーGENさんの処)わけなんですが、当時(勿論現在も)憧れの存在である黒夢もまだインディーズで地元のライブハウスによく来ていて、現場を手伝い、瞳にその姿を焼き付けていた毎日。
その少し後にLaputaでakiさんらが公演で訪れた時は衝撃を受けました。
所謂、今で言う「名古屋系」の系譜に連なるような陰影のある音や歌声のアーティストに強く惹かれていた自分にとっては、Laputaにも見事に打ち抜かれた訳です。


Laputaでシーンを賑わすそのまえからakiさん初め、メンバーさんにはとても可愛がってもらっていて、尊敬するアーティストでありながらも名古屋に住んでいるかっこいい先輩。という感覚に近い位フランクに接してくれた事を良く覚えています。


そこからインディーズを引っ掻き回し、東芝EMIからメジャーデビュー。その辺りのアルバムは擦り切れるほど聴いたものでした。


メジャーデビュー後も、これまで同様に接してくれ、当時ようやく念願のバンドを始めていた自分らとセッションで参加してくれたりと、その後輩思いの姿勢は変わらず。
そんな付き合いが長い長い時間をかけて今回のEP制作へと自分の足を運ばせたのだと思うと、とても感慨深いのです。




自分は人の声にとても強く惹かれていて、大好きなボーカリストはとても多いです。
前述の清春さん、MORRIEさん、櫻井さんをはじめ数多く、です。そのなかに当然akiさんも入ります。
akiさんの声はとにかく、鋭く滑らかで且つ甘い感じ。鼓膜にぶつけてくるというより耳の後ろを鋭利に切られるような感覚。シャウトに関しても同様。
元々の声区も違うのでしょうが、自分には到底出せない声。物真似レベルでも無理、とても憧れでした。


かなり長い間、自分の声が嫌いだった自分にも近年、「声が好きだ」と言って下さる方がいらっしゃって、ようやく自分の持ち味だと飲み込めるようになってきた今になっても
akiさんの、相手を飛び越えてしまうほど前に飛んでくる声には羨望の思いを隠せません。


今回のEPはそんな違う特色を持つ、両者の声を横山和俊という一人のマニピュレーターが纏め上げているので、そういった面でも愉しんでもらえると思います。






そしてTAG。
横さんと知り合ったきっかけは、実はこれまた名古屋。新潟から縁あってGULLETというバンドで活動するために、名古屋に住んでいた自分は、とある方のセッションに参加。その会場が名古屋のライブハウス。
その後しばらくの時間を空けてその方から都内に来てもらえるか、とお声がかかりそこで紹介されたのが横さんでした。
akiさんも公称しているとおり、そこでも「横ちゃん」。人柄はとても穏やかで、まず笑顔から思い出す事が出来る優しい人。
正直、それまでずっとアナログなバンドしかしてなかった自分にとってはマニピュレーターというものが何をするものなのかすらわからず、「BUCK-TICK」というワードを聴いても「この方も関係者の人なんだ」位の認識だったような気がします。
その会合では初見の曲に歌を吹き込むDEMOトラック制作の作業を軽くだけやって、横さんから「ナイスファイでした♪」をもらいました 笑
その頃出来たのが「Salient soul」かな。まだ原型の頃、たしか2005年か2006年。


当時自分はバンド活動を止めていて、地元に引っ込んでいたのですが、光栄にもその他、身に余るほどのお話を戴いていて。
それでも自分の気持ちがまったく、その提案に応えられるだけのところにあらず。横さん達のお話も含め、全て「ゴメンナサイ」と返答したのでした。


そこからその話とは別に、地元が同じ新潟という事もあり、大先輩にも関わらず自分が過去やっていたGarludaというバンドの元メンバーとの飲み会に、初対面なのにわざわざ駆けつけてくれたり、とても良くして下さいました。


そこからTAGの話に。そんなに多くない接点の中からryoという人間に可能性を見いだしてくれたのか、もらった言葉は「これまでずっと裏方で、役に立つ仕事をさせてもらっているけど、これからは自分のための音楽も少しずつ形にして行きたい、ryo君どう?(意訳)」というもの。
本意はどうあれ、自分にはそう聴こえて、これはまずい。今の自分ではその気持ちに水を差してしまう。そう感じた。


そのあたりで創作したのが配信初作の”montage”に収録されている楽曲。
特にSalient soulは横さんに気に入っていただけたけれど、自分では「これでは拙い、自分に足りないものばっかりだ」と悔いる日々。


結果、バンド活動に執着する自分の我が侭もあり、2007年には9GOATS BLACK OUTというバンド始動。
TAGの正式稼働に関しては、「自分が力をつけたら必ずやりましょう」と一旦、当面の猶予をもらっていた状態でした。


その頃、横さんはDummy’s Corporationを設立。TAGとはまた違うアプローチを仕掛けてきた事に驚きました。
そこから双方のタイミングがあうのが2011年、TAGのお披露目。
9GOATSのメンバーにも協力してもらってのステージ。
それ以後は皆さんが辿れるTAGの道程になります。






横さんの凄いところは、デジタルなのに暖かいところ。
知り合った当初よく聞かせてもらったのが「音はデジタルだけど、そこにノイズを乗せるの。そうすると自然界に存在する音に近くなる」という言葉。


とても腑に落ちた。


アナログなバンドサウンドが好きだった自分からしてみれば、一部のアーティストを除いて、80’s ニューウェーブの所謂ピコピコサウンドが苦手だった時期があって。(いまでは大好物)
それまで、シンセで出来なかった事が出来たという革新性もその熱量も知らずに、「だって打ち込みでしょ」という偏見すら。


そんな自分でもBUCK-TICKやLaputaの作品に織り込まれているデジタルアプローチはすんなり聴けた。
むしろ「おぉこれは新しい」とわくわくしながら聴いていた。
その時は自分の好きなアーティストだから、その要素も許容できていたのだろうと思っていたけど、違った。
自分が許容できるその音には、ことごとく横さんが関わっていた。








そんな人と音を、歌を共作できるなんて本当に光栄な事。
そんな人と創作のやり取りをするたびに「凄くいい!」なんて言葉にじわっと来る。


(ここから先はryo個人の曲、詩に対する解釈を書きます。先入観を持たずに曲とつきあいたい方は※まで読み飛ばすといいです。)


今回書き下ろした曲が収録されているSPLIT EPの「Cruelty」。TAGはデモの段階で横さんが仮タイトルを付けてくるのだけど
自分にとってはそれも作曲者の反映したい世界だと考え、活かしたいハードルの一つ。
タイトルの”Cruelty”は残酷・冷酷という意味合い。でも音は暖かい。これを表現するためにしっとりと落ち着いたメロディ、歌にしました。
雪国育ちの人には特にわかってもらえると思いますが、雪は寒さの象徴でありながら、包まれるととても暖かい。
だからこそ、表題は「Cruelty」のまま。楽曲の中に入り込むととても暖かい。そう思ってもらえたら幸いです。
TAGが作り出した「かまくら」。


長い間音楽のフィールドでずっと戦っている人と、共にものを創る事が出来る、これで一つ夢が叶ってます。
存命中であったら、自分はきっと父親に誇らしげに語っていた事でしょう。この歌は癌で余命を意識していた父親だったらそれを聴いて、こういう気持ちになるだろうと想定して書いた詩です。
かまくらのように包み込む様な暖かさ。でも故人にはそれを伝えられない現実、摂理の残酷さ。それを併せ持つ詩に出来ました。
横さんを父親、ryoを子供に見立て、父親の目線に立った詩と解釈しても面白いです。




もう一つの楽曲はTAGのきっかけとなった、前プロジェクトの時代の曲がベースになっています。
この曲はかなり長い時間寝かせてあったものですが、横さんから提示された時にはテンポ感から音の構成までがらりと変わっていて、面影があるのに「新生」というものに。
もとの曲タイトルは「BANG A GONG」(ゴングを鳴らせ)かな。
送られてきたデモには[B.a.G]とあって、これをBadge and your Gun.と解釈を変えた。よく映画などの台詞に出てくるあれです。
"Give me your Badge and your Gun.”「(警官役に向かって)さぁ、銃とバッジを返すんだ」というフレーズ。
別に警察に向けたものでも、特定の団体に向けたものでもないけれど、人はその立ち位置や、置かれている環境でだいぶ扱われ方が違う。
肩書きを外して、その相手を認めあう。そういう歌にしたいなぁと。
保証も何も無い世界。そこで寄り添うにはバッジも銃も必要なくて、ただ進行方向もわからない視界の中で、手を取るに足る存在だというだけでいい。


ベースがあったとは言え全く別のものにする事が出来たという意味で、書き下ろし楽曲だと思っている。
TAGが創ったBaG。まだまだ鞄には色々なものを詰められます。みんなの荷物を預けてもらってもいいかも。
そんな風に解釈してもらってもまた聴こえ方が変わってきます。






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akiさんと知り合って20年。横さんとTAGの話を始めて10年。
長い長い時間をかけさせてもらって、熟成したワインやウィスキーのように、覗いても覗いてもその懐が知れない奥深いものを創る事が出来たと思ってます。
そして同時にまだまだ、その充実感の奥に、「なぜもっと嘶くように唄えないのだろう、なぜもっと包み込むように発する事が出来ないのだろう」という気持ちは拭えません。
これらは自分が塵となるまでに、その鬣だけでも触れたい事の一つです。




長々と書き連ねましたが、今回のSPLIT EPは自分にとって、掛け替えの無いものになりました。そうやって思い返すと、ちょっと嬉し泣きな感じです。
TAG用に「何かに使えれば」と提供したアートワークも全面的に使ってもらえて大感謝です。
願わくば、こういった右往左往とする創作の迷路を彷徨いながら、少しでも前作を塗り替えられた。という事を続けて行きたいと思ってます。
どうかlive会場に足を運び、CDという我々の想いの詰まったパッケージを手にしていただけたら、これ以上の賛美はありません。




今年はまだ始まったばかりだけど、本当に「生きていて良かった」と思う事が多い。
今まさに自分は生きているんだ。


その喜びをこのテキストから感じ取ってもらえたら、またきっとそういう機会に恵まれるのだろうと。
そう信じて"Nの系譜"を閉じます。Nにはお好きな言葉を当て嵌めて下さい。


御清覧、有り難うございました。




2015年1月


ryo